こころ
楽天ブックスで見る誰もが心のどこかに抱えている葛藤を、ここまで巧みに描いた作品はそう多くないのではないだろうか。
どんな本?
物語は「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」の3部で構成されている。大学生の「私」は夏の海で先生と出会い、その知識に惹かれて足しげく通うようになるが、先生にはどこか煮え切らない影がつきまとう。理由のわからない墓参り、「時が来たら話す」という約束。やがて「私」のもとに届く分厚い手紙によって、先生がひとりで抱え込んできた過去が明かされていく。
この本で得られるもの
- 「欲は理性を抑え込み、エゴイズムを浮き彫りにする」という見方。作中では「財産」と「恋」がその欲として描かれている
- 人の過ちを、単純に「悪者」と言い切ってしまってよいのかと立ち止まる視点
- エゴイズムは、その醜さをわかっていてもなお拭いきれない厄介なものだ、という気づき
こんな人におすすめ
- 自分の中にある自己中心的な気持ちと、どう向き合えばいいか考えたことがある人
- 名前は知っているけれど、まだ読んだことのない名作に手を伸ばしてみたい人
読んでみて
読み終えて、先生を悪者として片づけることは僕にはできないと感じた。自分のエゴイズムに直面する出来事は誰にとっても他人事ではないし、僕の過去にも思い当たる節が1つ2つはある。印象的だったのは、遺書を書き残すという行為そのものも、結局は「やりきれない思いを吐き出したい」という先生自身のエゴイズムに行き着いてしまうところだ。わかっていても逃れられない。その厄介さが、この作品の深さなのだと思う。これをきっかけに、過去の偉人の小説をもっと読んでみたい。
僕が読んだのは別の出版社の版だが、ここでは定番の新潮文庫版を紹介している。